第２回「クリスチーナ・マッケンジー」
さて、「ガンダム・エコール」の時代設定はU.C.0085と決まった訳だが、
これにはもうひとつ理由がある。
多くのガンダムファンや一般的な視聴者がしばしば誤解していることだが、
アムロとホワイト・ベース（以下W.B.)の戦いの期間は、一年間ではない
ということだ。
実は「ファースト・ガンダム」（いまや初代TV版「機動戦士ガンダム」や
劇場版3部作をこう呼称するのは、ガンダムファンの間では常識。
最初の言い出しっぺはトミノ監督ご本人だったかと。）の物語は、
一年戦争の終盤、最後の2ヶ月あまりでしかない。
宇宙世紀年表などでご確認いただきたい。
確かに開戦から終戦協定締結までは一年間なのだが、
連邦が初めてMS（＝つまりガンダム）を実戦に投入し、
史上初めてMS同士の格闘戦が為されたのは9月半ばの出来事なのだ。
なまじ一年戦争などという命名がなされたため、余計に
錯覚する人が続出し、困ったことにクリエイターサイドでも
この設定を理解しないまま新設定を創作してしまうことがある。
…だからこそOVA「MS08小隊」は厄介なんですよ。
ギレンの演説の頃にすでに陸戦型量産ガンダムが多数実戦配備され、
地上をうろうろしてるなんてのは…(T_T)。
まぁOVA「0080〜ポケットの中の戦争」のNT-1の存在も
けっこうキツイもんがあります。
裏をかえせばたった2ヶ月半で、エース級パイロットになってしまう
一介の少年・アムロがいかに化け物であるか、ニュータイプとして
恐るべき存在なのかを物語っていることにもなるのだ。
まさに連邦の白い死神！
となるとそのわずかの期間しか実質的にMS同士の戦闘はなかったということになる。
この短い期間に合わせて物語を進行させること自体が難しいのは明らかだ。
また学徒動員なんて事態も起こっている状況で、ノンビリMSパイロット養成学校で
学園生活ってわけにもいかないので、もはや必然的に、舞台は戦後の平和な時代にならざるを得ない。
そこでU.C.0085。
さて、物語の基本が固まって、第1話の第1稿が上がってくる頃には
「ガンダムエース」誌上に連載開始の告知が行われた。
その際には美樹本先生描きおろしによる、「0080〜ポケットの中の戦争」の
クリスチーナ・マッケンジーのピンナップが折り込まれ、
そこにも「次号新連載スタート！」の煽り文句が添えられた。
そのため「0080〜」絡みの新連載と誤解をした読者も少なくなかったようだ。
確かに「0080〜」でキャラデザインを担当された美樹本先生がガンダム漫画を描くとなれば、
それを期待するファンが多いだろうことも無理からぬところだとは、思う。
実際、クリスを「〜エコール」に登場させようという意見は何度も上がった。
最初はそれこそエコールの教官のひとりとして（仮に、メインの活躍をさせない顔見せ程度でも）
客演させるという案もあるにはあった。
しかし「やっぱり、それは違うだろう。」クリスらしくない、無理やりっぽい…
などの判断から、没となった。
そして、連載がスタートした後にも、アスナたちがサイド３に寄港した折、かつてアスナが
教育を施されていたジオン国防大の司書か何かの学校職員としてカメオ出演させてみよう、
という意見も再びあがったりもしたものだ（このときは、より読者サービスとしての側面が強い）。
が、これまた「クリスがかつてのジオンの関係施設で働いてるというのは、
やはりしっくり来ない」「クリスはむしろ軍属で無くなって市井に入り、軍関係とは縁遠い
生活をしてるほうが、彼女らしい」などの意見が出され、「まず登場ありきで
捻じ込もうとするのはよくなかろう。」ということで決着した。
もちろん、登場願ったほうが読者も喜ぶだろうし、人気の面でもメリットが大きいのは判る。
こちらとしても出せるものなら出したいのは山々なのだが、不自然なのを押してまで
クリスを引っ張り出すのは、決して本意ではない。
ちなみにこのときは、グラナダでアスナたちと出会わせようなんて案さえも出ていたのだが、
結局、彼女の登板はなくなった。
ちょっと残念って気持ちは自分にもあるが、間違った判断ではなかったと思う。
(例えばミハル・ラトキエの弟が強化人間にされてたり、カミーユが医者になってるという
創作は、正直 私個人としては首肯しがたい。
そう考えれば、既存のキャラクターのその後や行く末を確定してしまう描写は、
ことほど左様に慎重であるべきだろう。）
もっとも一スタッフの立場からは「将来的にも絶対にない」とは言えないことではあるが。
蛇足ですが、ガンダム系のファンサイトの掲示板などで、
しばしば『「逆襲のシャア」のラスト近く、「クリス」と呼ばれる女性は
「0080〜」のクリスチーナなんですか？』ってな、書き込みがよくありますが、
もちろん違います。単なる同名の別人です。
「逆シャア」の小説版などを読んでいただければ判るのですが、彼女は
クェスがインドで修行をしていたときに指導的立場にいた女性です。
また近年までトミノ監督は、自分以外のひとが作ったガンダムは
全く観たことが無い、と公言していましたので、クリスチーナどころか、
「0080〜」自体をご覧になったことがないと思われます。
ちゅーか、そもそも「0080〜」のほうが後に作られてるんで…(^ ^;)。
ともあれ、こうして時代設定も確定し、メインのキャラクター設定と同時に
MSパイロット養成学校で使用される教習用MSを新規に起こすことになり、
渡邊編集長が依頼するデザイナーとして佐山善則氏のお名前を挙げたのであった。
（以下、第3回へ…）